文化学園長野中学校
2年前の文中(文化学園長野中学校)生徒会では「海の豊かさを山の私たちが守る!」 を目標に、マイクロプラスチック削減のための「新聞エコバッグ プロジェクト」を行いました。そこでは、新しい資源を消費せずに、環境問題の「4つのR」(Reduce:減らす, Reuse:再利用, Recycle:再生, Refuse:断る)に軸を置きました。
今年度は、水質を悪化させる「食用油や合成洗剤の問題」に取り組みます。
(1)調査:
①生活排水による汚染で最大の原因は、てんぷら油であることまた、台所用洗剤等の洗剤も水質汚染の原因であることを知る。
②油と洗剤の汚染原因について調べる。
③合成洗剤(泡立ちを良くするための界面活性剤を含む)を調べる。
④石油を加工した化学物質や、油ヤシという木から採取されるパーム油に着目。
⑤天然素材のパーム油について調べる。
⑥パーム油の生産時の焼畑に着目。(森林破壊、児童労働、サンゴやオランウータンの死滅などの問題)
➡「水をできるだけ汚さないこと」「パーム油の利用を少しでも減らすこと」を目標に。
(2)実験と実践
①大豆や菜種が主原料である使用済みの食用油を全校生徒の家庭から集める。
②廃油せっけんを制作する。
③何度も失敗する。(あきらめない)
④大量生産方法の研究。(理科の先生の協力)
(3)広報
①文化祭や善光寺びんずる市で販売する。
②石鹸の包装には、昨年度の生徒会執行部の交流で長野盲学校からいただいた「点字新聞」を利用する。
(4)新たな課題へ
【調査】
(1)生活排水
①使用済みの天ぷら油20㎖を流すと魚が住める水質に戻すためにはバスタブ(300ℓ)20杯分のきれいな水が必要になる。
(2)洗剤の環境負荷
①合成洗剤に使われる界面活性剤は石油を使う化学物質やパーム油が原料である。化学物質が環境や体に良くないといえるが天然素材のパーム油は?
②パーム油の生産地は東南アジア。生産過程では焼畑による森林破壊、児童労働、サンゴやオラウータンの死滅などの問題がある。
【実践】
調査から水を汚さないこと、パーム油の利用を減らすことを目標に廃油石鹸の制作をした。
廃油石鹸を4つのRに当てはめると…
リデュース・・・天ぷら油を処分するために使われる物の削減。
リサイクル・・・一度使った食用油を新しく廃油石鹸に生まれ変わらせる。
リフューズ・・・合成洗剤の使用をやめ、パーム油にもNoを突き付ける。
リユース・・・廃油石鹸の包装紙に丈夫な点字古紙を使う。
(3)廃油石鹸の制作方法
①ペットボトルの水にオルトケイ酸ナトリウムを入れる ②素早く振る ③②に家庭から集めた使用済み天ぷら油を入れる ④③をとろみが出るまで振る ⑤型に流し込む ⑥1か月ほど熟成させると完成
【販売】
作った石鹸を盲学校から頂いた点字新聞で包装し、7月2、3日の文化祭にて、油を提供していただいた方には配布、一般の方には1個100円で販売。
また、10月8日のびんずる市、ロータリークラブにも出した。
計300個ほどの廃油石鹸を売り、たくさんの人に活動を知ってもらうことができた。
【新たな課題】
(1)石鹸を製作するときに使用した道具類の洗浄で大量の水と石鹸が必要になるので結局水を汚してしまっていること。
(2)滋賀県が行なった分析では、手づくり石鹸の水質を示す1つの指標は、市販の石鹸の2 ~ 3 倍あったという調査結果もあった。
このデータの真偽を確かめるため、この廃油石鹸の環境負荷を科学的な視点でも調査した。
【水質調査1】
(1)調査方法
学校のそばを流れる犀川の水で合成洗剤と廃油石鹸それぞれ濃度0.5%の水溶液を作り、水質調査キットで有機物の量を測定。→せっけんを作るときに入れる薬品の影響
<使用した検査キット>
共立理化学研究所 BODパックテスト 川の水調査セット(COD他)
<測定項目>
・BOD・COD・アンモニウム態窒素 NH4-4・亜硝酸態窒NO2・硝酸態窒素NO3・りん酸態りPO4
(2)調査結果
BOD, CODの値はほぼ同じであり、亜硝酸態窒素などは廃油石鹸のほうが若干高い。
→せっけんを作るときに入れる薬品の影響
BOD:微生物が有機物を分解するときに消費する酸素量
COD:化学的に有機物を分解するときに消費する酸素量
(3)利用者の声
実際に石鹸を使っていただいた方から廃油石鹸は驚くほど汚れがよく落ちる!という声が届きはじめたため、同じ汚れを落とすときに、廃油石鹸のほうが必要な量は少なくなり、水を汚さないのではと思い洗浄力に着目してもう一度水質調査を行うことにした。
【水質調査と結果2】
(1)同僚の油を落とす石鹸と合成洗剤の比
2枚のお皿に同量のサラダ油を塗り、合成洗剤と廃油石鹸それぞれで、完全に油を除去できる量を測定。合成洗剤は8g、配布石鹸は0.5gの使用で、油を落とすことができた。合成洗剤:廃油石鹸=16:1
(2)水質検査結果
同じ汚れを落とした洗剤の質量比に基づいて水溶液を作り調査。
BOD COD NH4⁻ NO2⁻ NO3 PO4
廃油石鹸 100 8以上 0.2 0.01 0.2 0.1
合成洗剤 200 6 0.2 0.01 0.2 0.2
BOD値は廃油石鹸のほうが小さく、自然界での有機物の分解がしやすいことがわかる。CODは化学物質で有機物を分解するときに必要とする酸素の量なので、浄水施設などでは合成洗剤のほうが若干分解しやすいかも。
(3)水の使用量
すすぎの回数は、合成洗剤は4回、廃油石鹸は3回で、廃油石鹸のほうが少ない水で洗剤を落とすことができた。
【考察】
(1)廃油石鹸は油との相性がよく、合成洗剤よりも少ない量で汚れを落とすことができた。
この比率で使用した場合、廃油石鹸のほうが自然界では分解されやすく、環境への負荷が小さい。
(2)すすぎの回数も廃油石鹸の方が少ないことから、水資源の保全には廃油石鹸が有効だといってよいだろう。
新しいことをすることの難しさと楽しさ、そして便利には必ず環境負荷が伴うことを改めて知ることができた。
モノを、どういう視点で作り、どう使っていくのかを、ひとりひとりが意識することがとても大切だと実感した。
私たちの活動は、地球環境から見たら些細なものかもしれないが私たちの行動は誰かの意識や習慣を変え、その輪が少しずつ広がることで地球規模として広がっていく。今後は私たちの活動でみんなの意識や習慣を変えて「4Rでできた未来」を作っていきたいと思う。