信州大学工学部と地域防災減災センターの主催で、災害時に逃げ遅れないためのノウハウを学ぶ防災教室が、7月20日(土)・8月10日(土)の2日間にわたり開催されました。
2日目の8月10日(土)は、日本無線株式会社の長野事業所に集合。小学校4~6年生の児童約20名が、7月20日につくりかたを学び、宿題となっていた「マイ・タイムライン」を発表し合って、防災に関する意識を高めました。
【「山あり海なし信州」地形がもたらす意外な天気】
最初に、現在SBCラジオに出演中の気象予報士で防災士の松元梓さんが、長野県の気象と天気についてクイズ形式で解説をしてくれました。
1)長野市と東京の気温を比べて、正しいのは?
その答えは、「長野市は、夏の気温は東京と同じくらいだが、冬の気温は東京より低い」というもの。多くの子どもたちが「夏も冬も長野の方が寒い!」と思っていたので、ちょっとビックリした様子でした。実は、8月上旬の最高気温は、「過去30年の気温の平均値」だと、長野は32.2度と東京より0.3度高く、1月下旬の最低気温は-4.3度で東京より5.3度も低いそうです。1年の寒暖差は37度!これは、長野に海がないためです。海は「温まりにくく、冷めにくい」性質なので、海に近い地域は、夏は冷たく、冬は暖かい海風が入ってきます。だから海のない内陸の長野は「夏は暑く、冬寒い」のだそうです。
2)長野は全国的に雨が少ない?
長野市の年間降水量は、965ミリと全国の中でも少ないそうです。雨が少ないのは、「山」があるため。周囲の山にさえぎられて、長野県には雨雲が入ってこないのです。雨が降る仕組みは、上昇気流でのぼっていった水蒸気が上空で冷やされて粒になり、支えきれなくなって落ちてくるものですが、温暖化の影響で昔よりも水蒸気の量が多くなっているため、一度に降る雨の量も増えているのだとか。2019年には長野県でも、132ミリ(長野)という1年の1割以上の雨が1日に降ったことで、大きな災害が起こりましたよね。
松元さんは、気象庁の「キキクル」というWEBサイトの存在を教えてくれました。大雨災害の危険度をタイムリーに5段階で知らせてくれるので、自分の身を守るためにとても役立つそうです。「今後も、大雨の災害は増える一方です。みなさんには自分で自分の身を守れる人になってもらいたいです。」松元さんは子どもたちへのメッセージで、第1部を締めくくりました。
【VTR視聴】
川があふれたらどんな危険がある?妖怪のキャラクターでわかりやすく表現された動画を視聴。川から飛び出す“妖怪はんらんぼう”や、用水路に近付くと引きずりこまれる“妖怪ひっぱりだこ”など、大雨になると出てくる妖怪がいっぱいいます。でも知っていれば怖くない!大雨の時に妖怪がどこに出るかハザードマップで調べてみようという提案です。妖怪の種類によって、タイムラインに結びつけることもできそうです。
【マイ・タイムライン発表会】
前回の授業を受けて、自分が考えてきたタイムラインを発表します。発表する内容は、A:どこに逃げる? B:いつ安全なところに移動を始める? C:どんなものを準備する? D:オリジナルの防災行動は?の4点。まずはグループの中でそれぞれ発表し、次にグループを代表して一人がみんなの前で発表しました。
みんな漏れなく、自宅から歩いてすぐの中学校や高校など具体的な避難場所を明確にしていました。さらに、準備として「スマホやタブレットを充電」するとか、夜のために「懐中電灯」を用意するとか、「魚を移動する水槽」を用意するなど、家庭によってさまざま。「避難する前に近所の人に声をかける」という人もいました。
前回に引き続きご指導いただいた信州大学工学部の吉谷純一先生からは「近所に声をかけるなんて、私も気づかなかったです。自分の家庭のものだけでなく、他の人のタイムラインを見て気づくことも大事ですね」と感想をいただき、「タイムラインは大切な武器です。今日気づいたことがあれば、帰って書き足しておきましょう!」とアドバイスをいただきました。
みんなでマイ・タイムラインを持って集まり、記念写真を撮影して発表会は終了。災害は忘れた頃にやってくるものですが、吉谷先生のおっしゃるようにマイ・タイムラインは毎年確認をして、いざというときにぜひ活用してほしいですね。
【「仮想洪水体験システム」を体験しよう!】
次に、 国立研究開発法人 土木研究所が開発した「仮想洪水体験システム」をみんなで体験してみようということで、1人に1台パソコンが配られました。画面の中に現れたのは、水の動きを再現したバーチャル空間。ここは、長野市街地です。それぞれが自分のアバターをコントロールしながら、豪雨の中、避難所になっている善光寺と城山小学校へ避難するのがミッションです。まごまごしているとどんどん水かさが増して、すぐに周囲が水浸し。途中のTOIGOに到着する頃には、腰まで水につかっているアバターも。知っている道でもなかなか思うように移動ができず、もしこれが現実だったら本当にパニックでしょう。
【日本無線の社内を見学】
最後に、本日の開催場所日本無線の会社内を見学させてもらいました。2015年冬に、設計や開発部門などのエンジニアが、東京から1000人規模で引っ越してきたという日本無線。船の安全装置「レーダー」をはじめ、テレビ局の車や消防車についている衛星用アンテナ、気象用レーダー、防災無線など、ふだんあまり目にしないけれど暮らしを守るための機器を開発・製造している会社です。
最新鋭のビルは、各階がスケルトンのようなつくりのオープンフロア。エレベーターの壁もガラス張りで、開放感があります。エレベーターで屋上に出てみると、いろんな種類のアンテナが立っています。半径2.2mのレドームで防水されたパラボラアンテナは気象レーダー用で、半径80kmもの範囲の天気の状況を知ることができるそうです。ここから群馬や富山、新潟エリアまで観測できるとか。飛ばした電波が雲や雨粒に当たって跳ね返り、受信機で受信することで、雨の強さがわかるそうです。
ビーナスラインの車山高原にも同社の大型気象レーダーが設置されていて、全国の20機以上のレーダーを組み合わせると、どこでどんな雨が降っているのかわかるそうです。子どもたちはもちろん、付き添いの親御さんたちも、珍しい光景に興味深く説明を聞いていました。
最初の部屋に戻り、「修了証」を受け取って2日間の講座が完了。それぞれ家路につきました。この2日間は、親子で真剣に防災について考える、とてもいい機会だったことでしょう。未来の防災リーダーを育むきっかけになったかもしれません。学びを生かし、みんなで「逃げ遅れゼロ」を目指しましょう!