NAGANO SDGs PROJECT主催
実施報告
団体名: JICA東京 長野デスク
掲載日:2024年12月23日
「途上国における食品衛生」
下伊那農業高校で「公衆衛生」の授業の一環として、国際協力機構JICA(ジャイカ)による出前授業が開催されました。今回受講したのは、37名の3年生。上田市出身でご主人がアメリカ人というムーア美紀さんから、海外国際協力隊での経験をふまえた、途上国における食品衛生についてのお話を聞きました。
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はじめに、JICAの説明のために世界視点のクイズ出題。世界の国の数は?世界の人口は?60億/80億って何の数?ムーアさんは質問ごとに、座っている生徒たちにマイクを向けて答えを求めます。自信満々に答える生徒、自信なさげに答える生徒さまざまですが、合っていても間違っていても、次々にテンポ良くみんなの意見を聞いていきます。
JICAは、国内14カ所、世界96カ所に拠点があり、世界150カ国の援助を行っています。駒ヶ根にも訓練所があるJICAですが、海外協力隊には190種以上の職種があって、訓練を受けた隊員は途上国に2年間派遣されます。現在募集している協力隊員は、日本国籍の20~69歳。一般派遣とシニア派遣があり、20~30代の若手もいれば、企業を退職された60代の方も。面接と訓練に合格すると、73日間にわたる合宿で語学とさまざまな知識や技術を学びます。例えば、コミュニケーションの取り方や意思疎通の仕方を学ぶ「チームビルディング」、テロが起きた際の「安全管理」、自分の体やメンタルを整えるための「健康管理」、そして「事例研究」などがあるそうです。
ここで、ムーアさんの自己紹介。
上田市出身のムーアさんは、中学2年生の時に派遣された姉妹都市の中国で衝撃を受け、「海外っておもしろい!」と感じたそう。それまでは親の言うことを素直に聞いていた「良い子ちゃん」だったというムーアさん。以降はさまざまな事柄に対して「これって本当に正しいのかな?」と考えるようになり、多角的なものの見方ができるようになったといいます。
大学ではスペイン語を専攻し、スペインの大学へ留学。卒業して戻ってきてからは、観光に興味があったこともあり、志賀高原や山ノ内町でまちづくりの事業に従事。その後JICAに応募し、2019年にタイへ派遣されるも新型コロナで待機となってしまい、その後期間を短縮して再派遣となりました。帰国後は、新潟県の胎内市で「地域おこし協力隊」として活動されていたそうです。
次は、ムーアさんが海外協力隊員として派遣された「タイ」という国について。
「タイってどんな国?」と生徒にイメージを聞いてみます。すると、暑そう、道が汚い、仏教、ほほえみの国・・・。思いのほかあまり知られていないことがわかりました。ムーアさんは、地理的、政治的、宗教的なタイの基本知識を紹介。加えて、「私が驚いた3選」として挙げてくれた事柄は日本人との違いがわかりやすくて面白く、生徒たちも驚きの表情で聞き入っていました。
さらに、実際タイに住んでみてわかった文化的な特徴を紹介。こちらもあまりに日本と違いすぎて、どの話も驚きばかりでした。
【衣】・・・曜日ごとに色があり、金曜日は伝統衣装を着る日と決まっている。
【食】・・・主食は「米」で、おかずは辛い揚げ物が多い。外食が基本で、テイクアウトも多く、ワンプレート120円ほど。自炊の文化がないので、なんと家に台所がないのだそう!ガスもレンジも家庭にはないのが一般的。知っている日本語NO.1は「アジノモト」。
【住】・・・高床式住居が一般的で、シャワーのお湯は出ないこともある。断水もしばしばあるので、どの家も常にバケツに雨水をためておくそう。トイレに紙は流せないので、お尻を拭いた紙はごみ箱に捨てるとか。
そして、食中毒の患者の数が、日本では1万人に対し、タイでは100~150万人いるという事について「それはなぜか考えてみよう!」と隣同士で話し合い、発表してもらいました。
「水がきれいじゃない」と答える生徒に、ムーアさんは「なんで?」と聞き返します。「ちゃんと処理がされていない」という答えには「どういうこと?」、「暑い」「腐りやすい」という答えには「ってことは?」など次々に聞き返し、もごもごしている生徒に「考えを深めてほしいの!」と熱く語りかけます。
タイの屋台では、エアコンも効いていないところで生肉や寿司が売られているそう。衛生管理の基準はあるけれど、人々の意識が低いので運用している人がいないとのこと。そこで、日本はなぜ意識が高いか?考えてほしい、とムーアさんは生徒に投げかけました。
最後に、ムーアさんが海外派遣で身についたことを教えてくれました。
「自分は日本の中にいたらマジョリティ(多数派)だけど、マイノリティ(少数派)になる経験=『他者の靴を履く』経験をしたことで、相手の立場に立って見ることがでるようになりました。また、日本と他国の比較検討から、見えるものがあります。みなさんには、常にいろんな目線で考えてほしい。そして、探求を深めるために、『なぜ』を5回繰り返してほしい。探求を深めることで、より実りの多い人生になるかなと思います」と力強く生徒にアドバイスをくれました。
その後の質疑応答では、多くの生徒から手が挙がりました。
衛生基準を守らない人に罰則はないの?タイで自炊する場合はどうするの?おすすめのタイ料理は?などなど。中でも、「生活の中で苦労したこと」を聞かれたムーアさんは、外食で食中毒になって大変だったことを挙げました。ちょっと良い店で当たって、三日三晩嘔吐し、熱が出たそうです。そして、生ものは食べない!水に気をつける!氷にも気をつける!繁盛している店に行く!(作って提供する時間が短いので)など、会得した現地で食事をする際の注意すべきポイントを教えてくれました。
ほとんどの生徒が行ったことのない国の、日本とあまりに違う文化。ムーアさんのおっしゃる通り、他の国に興味を持ち、世界に目を向けることで、さまざまなものが見えてくるはずです。最後に御礼の挨拶をした生徒からは「いつか行ってみたい」という感想が聞かれ、しっかり刺激を受けた様子でした。今日の授業は少なからず、生徒たちの好奇心と探究心の芽を育むきっかけとなったことでしょう。それぞれの探求をさらに深め、人生を深めていってほしいです。
今回の出前授業を受けた生徒さんたちのアンケートをご紹介します。
Q1 今日の授業の感想を自由に記入してください
・自分の今までの人生で聞いたこともない全く新しい話ですごく面白い授業でした
・実際に外国に行ったことがある人の話を聞いて、本当に!?みたいなことがたくさんあってビックリした
・実際に自分で海外に行き、自分で体験することで得られる経験が沢山あると思うので、少しでも機会があれば挑戦していきたい
・ 日本での食中毒の話しか学んでこなかったので、タイでの食中毒被害が日本の倍であること、その理由など驚くことが沢山あっておもしろかった
・ JICAがどんなことをしていて、ムーアさんの経験から、タイはどんなところで日本とどのようなことが違うのか、海外の見方が変わった
・海外に行ったことが無いので、旅行に行ったときには観光しながらその国の文化に触れたい
・タイと聞くと、カレーやトゥクトゥクくらいしか思いつかなかった。曜日ごとの服や国家のことなど、知らなかったことが知れて楽しかった
・年間の食中毒が100万人以上もいて、タイの人の意識と日本の意識が違うことに驚きました
・タイは日本より100倍近くの食中毒者がいることを知り、意識の違いで数値が大幅に違うことを知った
・海外にいく機会があり、日本と違うことがあれば「なぜ?」という気持ちを持って考えたいと思った
・お坊さんが優先席に入っていて驚いた。トイレのマークが可愛かった
・タイと日本の文化の違いを知ることができて良かったです
・タイには自炊の文化がないので、家に台所がないということを初めて知りました。トイレのマークが可愛いと思いました
・タイの文化について少しですが、知ることができて良かったです
・タイ文化と日本文化で違いがあって楽しかった。18種類の性別があるということを知った
・日本では店を出すと厳しいルールがあるけど、タイではだれでも屋台で営業できると聞いて驚いた
・日本以外の国のことを知る機会はなかなか無いので、具体的な生活だったり意識を知ることができてよかった。とても充実した授業でした
・美味しそうなラーメンだった。値段も安い
・実際にその国へ行ってみることで見える景色と現実があり、それぞれの国で抱えている問題について考えるきっかけになると思った
・JICAに参加してみたいと思いました
・今まで外国へ行ったことが無くて、日本のことしか知らなかったけど、タイについて知って違いを見つけることができておもしろかった
・1日3回お風呂に入るとか18個の性別あるなど、色々知ることができました。本日はありがとうございました!
・衛生管理について、意識の高い日本人がタイ人などに衛生管理の大切さや食中毒の恐ろしさを伝えていけたらいいと思った
・日本とタイだけでなく、他国の問題も一緒になって協力していくことが大切だと思った
・海外には行ってみたいと思っていたけれど、どんな国なのかをあまり知らなかったので今日の話を聞けて、タイのことを知れて良かった
・タイは食中毒になる人が多いので、もし行ったときは食中毒にならないように気をつけようと思いました
・途上国のことや、JICAのことが沢山知れたので良かった。曖昧なことや知らなかったことを理解できた
・すごく充実した時間になりました。タイの色々な特徴を知ることができた。教科書には載っていないようなことも知ることができたのでとても楽しかった
・タイと日本では食品衛生の違いが結構あっておもしろかった。知らない国を簡単に批判するのではなく、ちゃんと調べてその国について知ろうと思った
・印象に残ったのは「批判より提案」「他者の靴を履く」という言葉です。外国の人を見た目や印象で判断するのは良くないという言葉が心に残った
・タイの文化を知って自分が偏見を持っていたことに気づきました。特に衛生意識が低いことに驚きました
・日本では最低基準に思っていることがタイの課題と聞き、国によってはこんなにも違うんだなと思いました
・相手の考えを受け入れ、理解したうえで接することが大事だと知ることができたし、海外に行ってみたいという気持ちが高まった
・スペイン語、自分も気になっているのでスペイン語圏の話をもっと詳しく聞きたくなった
・国や人によって気になるところ、こだわっているところが違うから面白いし、自分の常識は通じない、相手の立場に立って自分も経験することが大切だと思った
・文化の違いが沢山あって面白かった。他国は悪いイメージが強いけど、今回の授業で良いイメージができた
・住んでいないとわからない衣食住の詳しい話を聞けて、日本とは違う新しい発見があった。衛生面から国について知るのは初めてで新鮮だった
・わたしも一度海外に行って、日本との違いを体験したいと思った
・意外にも海外の生活様式について知らないのだと感じました。また、ほかの国ではどのような生活様式があるのかが気になりました
・自分も生活している中で疑問に思ったことを調べていますが、実際に見てみることでより実感できるのだと思いました
・他国について話を聞くのはなかなかないので良い機会になった。文化の基準が結構ズレてたのがちょっと面白かった
・JICAはどこかで聞いたことはあったけど、活動内容は知らなくて、今回知ることができて良かったです
・タイに行ったことがなかったので、タイの文化や生活のことを知るとてもいい機会でした
・インフラ整備が整っていないことからか、食中毒患者が日本の100倍以上いることに驚いた
・JICAという組織は知らなかったけれど、ムーアさんの話を聞いてJICAのことと、外国のことを知れたので良かった
・他国との常識や文化に抵抗感を持たず、このような文化なんだなと認め、理解することが一緒に生活するうえで重要だと思った
・マジョリティーだけではなく、他国のマイノリティーを知ることで新しい考えや見方を学べると思うので、ぜひ外国に行き学んでみたいなと思った
・日本とは違う文化や生活が沢山あり驚いた。タイの全体の生活に関することにはあまり意識が無いが、身の回りのことになると意識が高くなることが印象に残った
・日本と比べ首都バンコク以外の場所は発展していなかったところが多かったりしたので食中毒が多いのも、食文化が関係しているのかなと思った
・ JICAに対する理解を深めることができて良かった。また、タイと日本と比べてみると、日本はタイより堅い国でタイを見習ってもう少し柔軟にしてもいいと思った
・タイと日本のギャップがとても面白かった。日本は法律でガチガチだった
・タイはひとりひとりの衛生意識は低いが、ペナルティもあるのになぜ改善しないのか気になった
Q2 こんな授業があったらいいなというものがあれば教えてください
・タイの話で出てきたものの実物を見たくなりました
・今回の話を聞いて海外に興味を持てたので、海外について深く知っていきたいと思った
・日本が多く批判している国について、多くのことを知るための授業ああれば受けてみたい
・他の国のことも今回のことをきっかけに知りたいと思いました(多数)
・いろんな国の言葉の授業
・政治や教育、施設などへのお金の使われ方。食べ物に困っている国などへの寄付金の使われ方
・ムーアさんのように意見を拡げられるような人になりたいので、意見を言い合って拡げられる授業を受けてみたいです
・グループワークなど意見を言い合える授業
・質問にタブレットの入力フォームに書いて答える
・英語以外の言語を少し話せるくらいに学びたい
・他の国の伝統料理をつくって、日本食との違いを知る授業
・いろんな国の差別の現状
・今回のように生徒が思っていることを発言できる時間が多くある授業がいいなと思いました
・普段あまり勉強できない言語を勉強してみたい
・スペイン語の授業を受けたいと思った
・体験型の授業
・実際に海外の伝統工芸品をみてみたいと思った。その国の言葉についても知りたい
・バイオテクノロジーに関する授業
・県別の食品について。地域の特産品について
・JICAの訓練体験をしてみたいと思いました
・国内・海外に旅行をして価値観やものの見方を広げていきたい