カリブ海に浮かぶ島・セントルシアで、災害に負けない「国内最長の橋」を建てる!
コロナ禍にも屈せず世界で奮闘する信州人・松澤勝文さんにお話を伺いました
カリブ海の東側に位置する島国・セントルシア。人口18万人、国土面積は日本でいう淡路島ほど。毎年多くの観光客がバカンスに訪れる、美しく豊かな国です。
一方で、同国は大きな問題を抱えています。現在世界的な課題である気候変動により、大型ハリケーンが多発。氾濫した河川によって洪水が起こり、頻繁に交通が阻害されてしまうのです。安全面や経済面に大きな損失を背負ってきましたが、建設技術が発展していないため、自国の力だけでは解決することができませんでした。
そこで、JICA(独立行政法人国際協力機構)の無償資金協力により、2016年から大規模な橋の建て替えプロジェクトが始動しました。調査や設計を経て、2021年の3月からは、新型コロナウイルスの感染対策に十分配慮しながら建設工事に着手。それに伴い、「橋梁建設のスペシャリスト」が日本からセントルシアへと旅立ちました。戸隠出身の松澤勝文さん(74)です。
松澤さんは長野高校を卒業後、信州大学工学部へ進学し、同大学大学院を経て、1972年から橋梁・鉄鋼メーカーに勤務。1979年からは、南西アジアを中心に、日本の政府開発援助を中心とした橋梁建設にコンサルタントとして携わってきました。「中東戦争後のヨルダン、パレスチナ、イスラエルに橋を架けるなど、戦後復興に参加する機会が多くありました。戦後の町には活気があって、仕事をしていて楽しかったですね」
今回の橋梁工事は、セントルシアの首都カストリーズとヘワノラ国際空港を結ぶ要所であるカルデサック橋を、「50年に1度の大規模洪水でも流れない」81mの橋へと建て替えるもの。引張に弱いコンクリートの中にピアノ鋼線を通し緊張することでコンクリートが常に圧縮される状態にして耐荷力を増したプレストレスト・コンクリートや、地中40mまで鉄筋を降してからコンクリートを流し込んで造った強靭な杭の基礎工事、フランスで開発され高盛土を可能にした補強土(テールアルメ)擁壁など、日本では50年以上前から当たり前に使われている橋梁建設の技術を、現地の人々に指導しながら進めていきます。
このプロジェクトでは、(工事期間中の短い間ではあるものの)現地での雇用を生み出しています。セントルシアの人々は体格が良く、力もあり、高所作業も平気。それに、とっても真面目な人が多いのだそう。「仕事がなくても『何かしなければ』と自分にできることを探すような人たちです。一生懸命なあまり、転んだり、突き指をしたりして困ることはありますが(笑)、作業員としての能力は、世界でもトップクラスだと思います」
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セントルシアにおいては今後「ゼロカーボン技術」の発展にも期待が持てるとのこと。二酸化炭素を吸収する「カンラン石」は、溶岩が地中でゆっくりと冷え固まることによりできる鉱石で、火山国のセントルシアの地中にたくさん眠っているとのこと。松澤さんはこれら資源の有効活用にも期待を寄せているそうです。
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これから先の未来、途上国の開発を希望する若者に向けて松澤さんにアドバイスを求めると、「若い人たちは、これまでと同じではないことにどんどんチャレンジしていくでしょう。時代によって『正しい』と思うこともきっと違うでしょうから、それぞれの立場で、一緒に働いていきましょう」とメッセージを送ってくれました。
橋の完成は2022年11月。災害に負けない強靭なインフラが整うことで、安全な交通と社会経済のさらなる発展が期待できます。これからも世界を舞台に奮闘する松澤さんを、一緒に応援していきましょう!
2.支保工が造られ、橋の本体工事が開始します
3_支保工の上では型枠が出来、そこに鉄筋を並べ始めています